大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島地方裁判所 昭和52年(行ウ)25号 判決 1979年4月11日

広島県福山市御門町三丁目一〇番二四号

原告

園尾博男

右訴訟代理人弁護士

竹田浩二

広島県福山市三吉町二-二五〇-三

被告

福山税務署長

中原巌

右指定代理人検事

河村幸登

同法務事務官

小下馨

同大蔵事務官

三坂節男

吉川定登

杉田泰啓

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五一年三月三一日付でなした原告の昭和四八年分所得税につき総所得金額を一、〇八〇万七、五五四円とする更正処分(ただし、異議申立に対する被告の決定により一部取消がなされた後のもの)のうち六七〇万七、五五四円を越える部分、及び昭和四九年所得税につき、総所得金額を四八五万四、二六六円とする再更正処分(ただし、異議申立に対する被告の決定により一部取消がなされた後のもの)のうち一三五万四、二六六円を越える部分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者間の主張

一  請求原因

1  原告は、被告に対し、昭和四九年三月一五日、原告の昭和四八年分所得につき総所得金額を二八二万五、五〇〇円として、昭和五〇年三月一五日、昭和四九年分所得税につき総所得金額を六三万七、二八八円、分離短期譲渡所得金額を二八万〇、五九五円として、それぞれ確定申告をしたところ、被告は、昭和五〇年八月四日付で昭和四九年分の分離短期譲渡所得金額を五八万〇、五九五円とする旨の更正処分をし、次いで昭和五一年三月三一日付で、昭和四八年分総所得金額を一、四七三万六、三〇八円とする更正処分、及び昭和四九年分総所得金額を五四六万九、五四六円とする再更正処分をした(以下、昭和五一年三月三一日付の右更正処分及び再更正処分(ただし、後記異議決定により一部取消後のもの)のことを本件各処分という。)。

2  そこで、原告は、昭和五一年五月二八日、被告に対し、本件各処分につき異議申立をしたところ、被告は、同年八月二七日付で原処分の一部のみを取り消し、昭和四八年分総所得金額を一、〇八〇万七、五五四円、昭和四九年分総所得金額を四八五万四、二六六円とする旨の決定をしたので、原告は更に、昭和五一年九月二四日、国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同所長は、昭和五二年五月三〇日付で右審査請求を棄却する旨の裁決をし、その頃原告にその旨通知した。

3  しかしながら、原告は、訴外難波徹次(以下、債務者という。)に対し総額七六〇万円の貸金債権を有していたところ、債務者は、昭和四八年九月倒産し、右貸金債権は回収不能となったが、そのうち四一〇万円は昭和四八年中に、三五〇万円は昭和四九年中に弁済期が到来したので、原告には右各年中にそれぞれの回収不能金額相当の貸倒損失が発生し、これは、事業所得金額の計算上、必要経費に算入されるべきものである。

4  しかるに、本件各処分は、右貸倒損失の必要経費算入を認めず、原告の総所得金額を過大に認定した違法がある。

5  よって、本件各処分の各総所得金額につき、昭和四八年分については前記異議決定額一、〇八〇万七、五五四円から右貸倒損失額四一〇万円を差し引いた六七〇万七、五五四円を超える部分の、昭和四九年分については前記異議決定額四八五万四、二六六円から右貸倒損失額三五〇万円を差し引いた一三五万四、二六六円を超える部分の取消をそれぞれ求める。

一  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の各事実は認める。

2  同3のうち、原告が債務者に対し、主張のような債権を有し、その弁済期が主張のような日時に到来したことは認めるが原告主張の債権額が貸倒損失として事業所得金額の計算上必要経費に算入されるべきであるとの主張は争う。

3  同4の主張は争う。

三  被告の主張

1  原告が主張する債務者に対する貸付債権の貸倒れは別表一のとおりであるが、もともとこれが貸倒損失として税法上必要経費と認められるためには、(一)貸金等の全部又は一部について免除、放棄等がなされた場合、(二)貸金等が事実上回収不能となったことが確定した場合、に限られるものと解されるところ、本件において原告の主張する貸金について、右(一)の放棄その他法律上の消滅原因となる手続の採られていないことは明らかであり、また右貸金は、以下に述べるように右(二)の回収不能にも該当しないのである。

2  すなわち、原告は、債務者に対し別表一の貸付債権のほか、別表二の貸付債権を有していたが、その回収状況は次のとおりであった。

(一) 別表二の貸付債権には、同表担保物件欄に記載の如くこれを担保するため、債務者所有の宅地及び債務者とその母との共有(債務者の持分三分の二)の建物(以下、両者を総称して担保物件という。)に抵当権が設定されていたところ、先に右担保物件に対し根抵当権を設定していた訴外備後信用組合から、広島地方裁判所福山支部に対して競売の申立がなされ、原告の妻訴外園尾節子が四四〇万円で競落し、昭和四九年一二月二四日同人に対し競落許可決定がなされ、昭和五〇年一月二五日広島地方裁判所福山支部に競落代金を納付したことにより競落が確定した。

(二) 原告は、昭和五〇年三月三日広島地方裁判所福山支部に対し「債権計算申出書」を提出し、同年三月七日競落代金の分配金一〇四万七、七四九円の支払を受け、債務者に対する貸付債権の一部を回収した。

(三) 右のように、別表二の貸付債権については、昭和四八年末はもとより昭和四九年末においても担保物件の換価処分がなされておらず、かつ、その処分による分配金の額も確定していなかったのであるから、未だ最終的に貸付債権が回収できるかどうか、また回収できるとしてもその金額がいくらであるか明らかでない状熊であったと認められる。

3  また、貸付年月日は明らかでないが、原告は債務者に対する五〇万円の貸付債権を次のとおり回収している。

原告は、右貸付債権について債務者の支払がないとして、債務者の保証人訴外酒井紀夫に対して、昭和四八年一〇月ころ執行官とともに同人宅を訪れ、保証債務の履行を求めて同人の資産の差押えをせんとしたところ、約束手形により支払うとの同人の申出により差押えを中止し、同人から訴外山陽相互銀行を支払場所とする原告あての約束手形一〇通額面合計五二万八、四八〇円(支払期日昭和四九年一月三一日から同年一〇月三一日、額面初回七万八、四八〇円、次回以降各五万円)の交付を受け、これを訴外中央信用組合福山支店を通じ取立回収した。

4  もともと、同一債権者が、同一債務者に対して数口の債権を有している場合、これら債権の間に、担保の有無その他債権の性質の相違等特段の事情のない限り、前記第一項(二)の事実上の回収不能については同一に判定されるべきものである。本件において原告が貸倒損失を主張する昭和四八、四九年当時には、前述のとおり回収されつつあった別口の債権があったわけであり、このような事情からも、原告が貸倒れとなったと主張する本件貸金が、原告の主張する年度に回収不能が確定したとは認められないのである。

四  被告の主張に対する認否及び反論

1  被告の主張2の(一)、(二)及び3の各事実は認める。

2  保証人や担保物件のない一般債権の貸倒損失については債務者の一般財産からの回収可能性についてのみ検討を加えるべきであり、他の保証人付債権又は担保物件付債権について保証人又は担保物件からの回収があったとしても、一般財産から回収することができない見通しである以上、一般債権については経済的に無価値なものとして、貸倒損失が認められるべきである。

第二証拠

一  原告

1  甲第一、第二号証

2  証人難波徹次

3  乙第三号証の一、二の成立は不知、その余の乙号各証の成立は認める。

二  被告

1  乙第一、第二号証の各一ないし四、第三号証の一、二、第四号証の一ないし三、第五ないし第八号証

2  甲号各証の原本の存在と成立を認める。

理由

一  請求原因1、2の各事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、原告主張の債務者訴外難波徹次に対する貸付債権が、貸倒損失として原告の本件各係争年分の事業所得金額の計算上必要経費に算入されるべきものであるか否かについて検討する。

1  まず、所得税法上ある年度に債権の貸倒損失が生じたとしてその額を当該年度の所得金額の計算上必要経費に計上することができるのは、(一)債権の全部又は一部について免除、放棄等の債権の切捨てがなされ法律上当該債務が消滅した場合、又は、(二)債務者の資産状況、支払能力等からみて事実上債権を回収できないことが明らかになった場合でなければならないと解すべきである。

2  しかして、原告が貸倒損失を主張する債権について、免除、放棄等法律上債権を消滅させる手続が採られていないことについては、原告は明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。

してみると、原告主張の本件各係争年分の債権がそれぞれの年度において貸倒損失として必要経費への算入が認められるためには前記(二)の要件を充たさなければならないというべきである。

3  そこで、右の見地から本件各係争年度における債務者の資産状況、支払能力等について検討を加えることとする。

(一)  原告が債務者に対し別表一、二記載の債権を有していたこと、同表一の債権のうち四一〇万円については昭和四八年中に、三五〇万円については昭和四九年中にそれぞれ弁済期が到来したこと、同表二の債権合計六六〇万円についてはこれを担保するため債務者所有の宅地等につき抵当権が設定されていたこと、右担保物件に対し他の債権者から競売の申立がなされ、原告の妻訴外園尾節子がこれを四四〇万円で競落し、昭和四九年一二月二四日競落許可決定がなされ、右競落許可決定は昭和五〇年一月二五日競落代金の納付により確定したこと、原告は、右競売手続において、昭和五〇年三月三日競売裁判所に対し債権計算申出書を提出し、同月七日競落代金の分配金一〇四万七、七四九円の交付を受けたこと、以上の各事実は当事者間に争いがない。

(二)  次に、証人難波徹次の証言によれば、債務者は、電器製品販売業を営んでいたところ、昭和四八年九月二〇日手形の不渡を出し、およそ六、〇〇〇万円の負債を抱えて倒産したこと、その頃債務者が所有していた財産は、時価およそ一、五〇〇万円の自宅建物とその敷地の他には家財道具がある程度であったこと、債務者は、倒産後一時行方不明となったが、同年一〇月二日ころ詐欺の容疑で捜査当局に逮捕され、二か月間身柄を拘束された後同年一二月はじめ保釈出所し、昭和四九年一月保険会社に就職したこと、そして、同年中に一〇〇万円程度の収入を得たが、右収入では一家五人の生計を支えるのに精一杯で、右収入から前記負債の弁済は全くなされなかったこと、債務者は現在(昭和五三年八月)詐欺罪により服役中であり、その刑期は昭和五五年二月までであること、以上の各事実が認められ、これに反する証拠がない。

4  しかして、前記争いのない事実及び右認定の各事実によれば、

(一)  まず、債務者所有の担保物件の競売手続は昭和四九年末までには末だ完了するに至っておらず、したがって同年末の段階では、右担保物件の競売代金も、また右競売代金から有効に配当を受け得る被担保債権の金額も最終的に明らかになっていなかったのであるから、右担保物件の競売代金が被担保債権の合計金額に達せず、それ故一般債権の弁済に充てられる剰余金の生ずる余地が全くなかったと断定することはできないものといわなければならない。

(二)  さらに、債務者は、昭和四九年一月に保険会社に就職し給与所得者として稼働を始めており、結果的には同年中には未だ債務の弁済に一部を充てることができるほどの収入は得られなかったのであるが、当時債務者の右給与所得による収入如何によっては、原告の一般債権についてもその一部にせよ回収し得る可能性が全くなかったとは断定できないのであるから、本件各係争年度において、原告主張の債権が事実上回収できないことが明らかになったものと認めることはできないといわざるを得ない。

5  すなわち、本件においては、事実上債務者から債権を回収できないことが明らかになったというためには、当該年度において債務者に当該債権の全部又は一部の弁済に充てるべき資産のないことが確定し、また、債務者が継続的に収入を得ているとしても、その収入金額では到底債務の弁済は不可能であるという状況が相当期間継続し、もはや債権の回収の見込みがないということが確実になることを要するものと解すべきであるところ、債務者は詐欺罪により昭和五五年二月まで服役中のため、少くとも右服役を始めた年度においては債権回収の見込が全くなくなったと言い得るので、所謂貸倒損失としてその年度の必要経費に計上され得るとしても、本件各係争年度の貸倒損失として必要経費に計上することは認め難いところである。

三  以上説明のとおり被告のなした本件各処分には、原告主張のごとき違法はなく、適法なものといわなければならないので、原告の本訴請求は失当としていずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 植杉豊 裁判官 大谷禎男 裁判官吉田徹は長期出張のため署名押印できない。裁判長裁判官 植杉豊)

別表一 原告の主張する貸付権権の貸倒損失

昭和四八年分

<省略>

昭和四九年分

<省略>

別表二 原告の別口貸付債権

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例